シルフル小説 リオ編4話
 

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裏緒は二階に向かい階段を上がっていた

目指す階にはこの事件の主犯である遠山がいる そしてこの立てこもり事件を終わらせるべく彼のも元へ向う

階段を上り終えた裏緒は遠山が居るとされるバーの一番奥を向いた

そこには黒いソファーに腰を掛け足を組んだ赤髪の男がたたずんでいる

そして彼の両脇ににはドラム缶が置いてあり そこからは炎が立ち上っていた

遠山は階段を上がってきた見知らぬ男を目にすると問いかけた

「あ〜? 誰だおめーは・・・どっから入って来やがった!?」

「どこから?・・・そうだな正面の入り口からだが?」

その問いに裏緒はありのままを答えた

「下には俺の部下が居たはずだがぁ あいつら何やってやがったんだ?」

「下の部下・・・彼らはもう居ない・・・」

「もう居ない?!あっ!そりゃどういう意味だ!!」

もう居ない・・・裏緒のその答えに 遠山は席を立ち上がり声を荒げる

「お前ももうじき居なくなる・・・そういう意味だ」

刀を掲げ裏緒がそう言い放つと 遠山は察したように表情が変わり鋭い目つきになり裏緒を睨み付けた

その刹那 遠山は手を掲げ 周りの炎を操り 巨大な火の玉とすると 瞬時に裏緒目掛け撃ちこむ

それに対し裏緒は掲げた刀を火の玉の方に向けた すると旋風が巻き起こり炎をなぎ払いかき消した

「風の力か! お前もそこそこ力が使えるようだな ・・・だか足りねーんだよ力が

それじゃあお前には一生俺を倒すことはできねー!」

遠山は大声を張り上げた

「・・・・・・・・」

その思い上がった言葉に裏緒は返す言葉を考えていた

「あ!? おめーみたいなガキには分からねーよな!

ビビッて考えられねーのか?」

遠山はさらに声を張る それに対して裏緒は言葉を返そうとしたその時 背後の気配に気づく

そこにはワインのボトルを今にも振り下ろそうと構えた男の姿があった 遠山はこの不意打ちのため気を引いていたのだ

振り下ろされたボトルに刀の鞘をあて力を受け流す ボトルは鞘を伝い床を大きく打ち付けた

体制の崩れた相手に裏緒はふわりと飛び上がり相手の後頭部に足を掛け相手の頭の上に立った

「『椿落とし』・・・」

裏緒はそう口にしながら全体重を相手の後頭部に掛け 落ちる椿の花のごとく相手の頭を床に叩き付けた

相手は一瞬にして意識を失った しかし息はまだある 彼の運命を決めた要因は

能力者か如何なの判別がつかなかったことであろう

「っち 気づきやがったか・・・」

遠山は絶好のチャンスを生かせなかったことを悔しがった そして裏緒の口にした言葉が気になり問いかけた

「今・・・お前何か言っていたな もしかして技の名前とかか?」

「そうだ 『椿落とし』それが今出した技の名だ」

裏緒の答えを聞くと遠山の口元が緩みはじめる

「そんなこたぁ聞いてないんだよ ・・・っぶ くくく 技に名前なんて付けてるとは!

それに手には刀と来たぁ 所詮ヒーロー気取りのガキだ てめーは!!!」

腹を抱えて笑い出す遠山

「刀なんてもんが通用するのは雑魚だけだ 強ぇ奴があいてだったら切る前にやられちまうんだよ

そいつが届く所にたどり着く前に お前は黒焦げになっちまうんだぜ」

遠山と裏緒との距離は8メートル前後 すでに裏緒の元へ攻撃できる遠山に対し

裏緒の刀は柄から鞘の先までで1メートル 手を伸ばしても2メートルにもならない

「そうだな 確かに刀は刃が届かなければ意味はない ではもうひとつ見せてやろう 『技』というものを」

そういうと裏緒は刀の柄に手を掛け 腰を落とし居合い切りの構えに入る 

何かが来るそう察知した遠山は ありったけの炎を操り裏緒に向いはなった

「ガキに教えておいてやる 強ぇ奴の行う行動はすべて『技』なんだよ!! 

わざわざ名前を付けて何かにたとえる必要も たとえて強さをひけらかす必要もねぇんだ!!!

俺が使うから俺の技でありそれだから強く美しい 名前なんぞ付けなくても俺と戦やぁそれは伝わるんだよ!!!!」

遠山はそう叫びながら炎で裏緒を包み込む

バー内に大きな火柱が立ち上り 周囲を真っ赤に照らす 

その光景に遠山は勝利を確信したその瞬間

「『深風』」

火柱の中より聞こえたその言葉と共に 衝撃のような突風が遠山を通り過ぎた 

裏緒を包んでいた炎はかき消され 遠山が用意していたドラム缶の火すら消し去った

「あんたは名前を付ける意味をまったく理解してない 今の『技』も さっきの『技』も 先人より授かったものだ

俺もまた『技』を磨き後世に伝えていくことになる 名を付け形を成すことにより『技』は後世へと語り継がれていく

あんたにはもう 分かることは無いと思うが・・・」

そう言うと裏緒は遠山に背を向け気絶していた男に手錠を掛け始める

「・・・っおぃ・・・」

遠山は背を向けた裏緒に何かを言おうとし 一歩前に出ようとした

その瞬間遠山の目の前が一瞬暗くなる その次の瞬間には目の前に何者かの背中が現れた

(誰だ急に現れやがって!?邪魔であいつがみえねぇ)

(ん!?・・・おかしい声がでねぇ 体もまったく動かねぇぞ・・・)

遠山は目線を上に上げた

(・・・やけに天井が高い? 前のやつの服・・・俺と同じ?・・・ん・・・こいつ・・・が・・・無い・・・ぁ・・・)

遠山はその見ていた背中が誰のものであるか それに気づいたときにはその意識はもう消えていた

裏緒は気絶した男の手と足に手錠を掛けていた 背中に人の倒れる気配を一つ感じると一度振り返りそこにはもう誰もいないことを確かめた

そして気絶した男をバーの階段の手すりに繋げて 目を覚ましても動けないようにし

持ち物を確認し危険な物を所持していないか確かめた 男は特に何も所持してはいなかった

そしてこの階の安全を確認し終えると夕に連絡を入れる

「夕 二階まで制圧は完了したが 中には確認されて居ない人物も1名いた そいつは逮捕したが他にもまだいる可能性もある

俺はこれから三階より上にも誰か居ないか探しに行く 矢部警視には一階二階を頼むと伝えてくれ」

「了解 そう伝えておくわ」

夕はイヤホンマイクから聞こえてきた裏緒の伝言を受け取った

「ん〜終わったみたい〜?」

夕の後ろから和人が語りかける

「まだみたいよ 新手が居たらしくて三階から上も調べてくるらしいわ

一階と二階の制圧は完了したらしいからそっちを矢部警視に任せたいって言ってた」

「じゃあ僕が矢部警視に現場に警官を入れるように話してくるね」

夕の話を聞くと和人は立ち上がり矢部警視のいる建物にむかおうとした

「ところで和人 あんた今までどこにいたの? ここに来る前には居なくなってたわよね」

裏緒突入の際 夕は現場の雑居ビルの前に張られたテントの机の前に腰掛けていた そのときには和人は居なかった

「・・・聞きたいかい? ちょっと言いづらいことなんだけど」

「・・・何?気になるからさっさと言いなさいよ」

「実は・・・」

和人は腕を組んだ後 鼻筋に指を当てずれた眼鏡の位置を整えながらが話し出した

「トイレに行ってたんだ〜 警視に会った後お腹いたくなっちゃって トイレ探してたら時間かかっちゃった」

その言葉に夕は愕然とする

「このアホが!!もういいからさっさと矢部警視に会ってきなさい!!!」

「はーい じゃあいってくるね」

夕が立ち上がり和人を怒鳴りついけるが 気にも留めず軽い言葉を残しながら和人はその場を後にした

「ああああ!!! トイレとか!!! あの馬鹿!!」

あまりの和人の能天気な発言や行動に夕の怒りが口から出る そこへ

「あっ トイレですか? それならそこに簡易トイレが」

トイレの言葉に勘違いした警官は場所を教えてくれたが それがさらに夕に火をつける

「あ”!! 私じゃない!!! それにトイレなんて言われなくても見れば分かるわよ!!!!」

夕は大きな音を立てながら再び椅子に腰を掛け 机に肘を掛けしかめた表情で目の前の雑居ビルを見据えた

(あの馬鹿眼鏡め・・・ん?でも何か・・・あー考えるのが面倒くさくなってきた さっさと終わらせて帰りたいわ)

馬鹿眼鏡とはもちろん和人のことである 夕は多少気になることは有ったが 思い出せばまた腹が立ちそうなためやめた

夕はしばらくボーっと現場の雑居ビルを眺めていた 今はやることがないため 夕は退屈だった 

能力により感知できるのは髪の毛などが用意できた人物だけで 新手は感知できないためである

イヤホンマイク越しに裏緒側から聞こえる音は さっきから扉を開け閉めする音だけで何の進展もなさそうだ

「裏緒? そっちの状況はどんな感じ?」

夕はイヤホンマイクのマイク側のスイッチをオンに戻して 裏緒に話しかけてみた

「今は五階の部屋の半分まで調べ終わったとこだが誰も居る気配はないな 頼んだ一階二階を任せる件はどこまで進んでいる?」

「あーそれは今和人が・・・あっちょうど警官隊が動きだしたわ」

裏緒の問いに夕が答えようとした時 警官隊が建物に向け進み始めた

「了解した 俺は引き続き残りの部屋を調べてくる」

「さっさと終わらせてね 早く帰りたいから」

「はいはい すぐ戻るさ」

通信中も裏緒が個室を捜索するためドアを開け閉めする音が聞こえた

個室には椅子とテーブルがあるだけの小さな空間のため見るだけで犯人が居ないかはすぐ分かる 

念入りに調べるとしても開けたドアの影か天井に張り付いていないかと確かめればもう探すところはない

最後に屋上に上り周りを見渡した裏緒は犯人がもう居ないことを確かめ終え

矢部警視がすでに到着してるであろう このビルの二階に向かい階段を下りていった

 

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