シルフル小説 リオ編5話
 

前回 戻る 次回

 

立て篭もりが起こった雑居ビルにはすでに警官隊が入り 現場検証などが行われていた

現場に入った20名近い警官 その中から時折口元を押さえ建物から出てくる者がいる

裏緒(リオ)の突入した現場では 毎回このようなことが起こる

一般警察にとっては いや殆どの人間にとっては現場は言葉にしがたい状況であろう 

それに耐えかねた者が建物から外の風に当たりに出てくるのである

そしてまた建物から 上司に支えられ若い警官が建物から出てくる

「・・・何なんですかあの状況 倒れていた犯人は皆 首から上が・・・うぇぇ」

「彼が戦った後はいつもこんな感じだよ」

若い警官に上司がそう答える

「でも酷すぎませんか!?床一面真っ赤・・・うぅ」

若い警官は現場を思い出しまた口元に手を当てた そこに上司が

「おまえ 殉職した警官の話は聞いてるか?」

「・・・確か火を浴びせられて大火傷したという話は聞いてます」

「彼は逮捕した売人などを先に逃がしていて警官隊の一番後ろに居た そこへ火を浴びせられ

二階の階段から一階へ火達磨になって転げ落ちたらしい 先に下りていた仲間の警官が

火を消し抱えてビルの外に連れ出したんだが・・・ そのときには既に息がなく

その火傷は家族も彼だと分からないくらいのもの だったらしい・・・」

「・・・・・・・・・」

上司の話に若い警官は言葉をなくす

「そんなことができる犯人が 外へ逃げ出したら大変なことになる

それを止められるのは彼らなんだ 悪く言ってやるな」

裏緒達を知る警官で 彼らを悪く言う者は殆どいない

それは能力者の事件を解決で来るのが 彼らと言う理由だけではない

他の地域では能力者が起こした事件は それ専門の対能力者組織に大金を叩いて頼んでいる

それは地域の警察に 大きな能力者の事件を担当できる警察課がないためだ

強い能力を持つものは幾らでも大金の稼ぎ口があるため 給料の安い警察職には見向きもしない

警察も高い金を払って能力者を常駐させるな 対能力者組織に依頼したほうが安上がりなため 高い給料を出すことはない

裏緒達も警察外の組織に入れば 今の何十倍ものお金を稼げるはずだ 

それでも警察に所属し地域の事件の解決に当たっており 治安維持活動などもしている

さらに警察であるため事件現場に速やかに駆けつけられ 事件の鎮圧も速やかにおこなう

そういった裏緒達の姿勢もあって 彼らを否定することは無いのであった・・・

雑居ビル内では二階部分の検証に矢部が当たっていた そこへ

「矢部(ヤベ)警視 お疲れ様です」

三階から降りてきた裏緒が声をかける

「上の状況はどうだった?」

「犯人らしき姿は見当たりませんでした」

矢部の問いに 結果を裏緒は報告した

「しかし 今回も派手やったものだ」

「・・・俺の力が足りないばかりに申し訳ない」

裏緒は矢部に頭を下げた

「・・・まあ今回は一人逮捕できたので まだ良かったのだろう」

矢部もそこまで裏緒を攻める気は無く話を流した

「警視 今回逮捕した犯人の身元は分かりましたか?」

裏緒は逮捕した犯人のことが気になっていた 能力者か否かで この犯人の未来が決まるからである

「身元は判明している 名前は藤田(フジタ) 遠山(トオヤマ)のグループの仲間で こいつも火を扱うことができる能力者だったよ」

「!!」

矢部の報告に裏緒は絶句した 能力者である逮捕された彼にはこれから過酷過ぎる運命が待っていることを裏緒は知っているからである

裏緒は思い出していた 手錠をかけた後起こして能力者か確認することもできたのではないか? 

しかし手錠をかけた後は上の階にまだ犯人の居る懸念があったため時間はなかった

持ち物には火をおこせる物を持っていなかったのも確認していた それが能力者ではないとの思い込みを生んだのか?

そもそも能力者かどうかを懸念し気絶でとどめた事がいけなかったのか?

さまざまな考えが頭を走った

「ん・・・? 顔色が悪いようだが大丈夫か?」

矢部は裏緒のわずかに外に漏らした動揺に気づき心配する

「・・・大丈夫 多少疲れただけです 先に外で休ませてもらってもよろしいですか」

「かまわない 外のテントに 江戸(エド)刑事達が居る そこで休んでいなさい」

矢部の許可を得 裏緒は雑居ビルの外に出て行った ビルの前のテントで和人(カズト)たちが裏緒に気づく

「裏緒くん お帰り〜」

「意外と早かったのね」

和人 夕(ユウ)が 裏緒に声をかける

「・・・ただいま 警視に頼んで先に休ませてもらうことにした」

裏緒はそう言うとテントの椅子に腰掛け 逮捕した犯人が能力者であったことを二人に話した

「・・・そうか でも裏緒くんは最善を尽くしたんだよね ならどうしようも無いさ」

「最善・・・本当にあれがか?」

和人の言葉に裏緒は本当に自分のしたことが最善であったかを疑問視した

「君は常に冷静に判断できるのを僕は知っている それに最善が最良の結果を生むとは限らないよ

仮に博打を打てば最良を引き出せたとして 毎度そんなことをしてられないでしょ」

和人はそう言い 裏緒を諭した

「もし 博打を打てば最良を得られたのならそうするべき時だったんじゃないだろうか・・・」

「博打を打つことになれば君の命を懸けることになる それを行うのは仲間や自分の命を救うときだけで十分だよ」

裏緒たちが戦っている場所は 少しの油断が命取りに成りかねない 和人は裏緒たちの身を案じているのだ

しかし後ろで見ていた夕は腑に落ちない サングラス越しに目を細め眉をひそめる

(なんでこんな時だけ立派な言を吐けるかな こいつは?)

夕は和人のこの言葉と 普段の肝心なときに居なかったりするなどの頼りなさの 釣り合いの取れなささに苛立ちを覚える

「ああ分かったよ 無茶だけはしないように約束する」

(裏緒も裏緒よね 何でこいつの言葉を真に受けられるかなー?)

夕は裏緒が和人を何処か尊敬しているところが疑問であった 真面目で律儀な裏緒に対して 能天気でちゃらんぽらんの和人

どうしても和人が尊敬できる人間とは 夕には思えないからである

「何はともあれ 二人ともお疲れ様 後は検証がある程度終わったら 警視から帰りの許可が出るでしょう 

それまで時間があるから 僕は飲み物でも買ってくるよ」

そう言うと和人は駆け足でテントから去っていった

「和人って 何処か尊敬できる所あるの?」

夕が裏緒に 気になっていたことを尋ねて見た

「ん?急になんだ」

「裏緒ってさー 結構和人の言うこと真に受けてるじゃない それが私には分からないのよねー」

裏緒の返事に夕はさらに疑問を投げかけてみた

「確かに今の和人は自分の事をしたの名前で しかも呼び捨てで呼ばせたり へらへらした態度をとったりしてるし 分からんでもないが」

「昔は違ったの?」

「ああ 俺が出会った3年前くらい前は違った」

「へー じゃあ裏緒が出会った当初はどんな感じだったの?」

「なんというか威厳を通り越して怖いような感じだったかな 一ヶ月位で今みたいな感じになったからあまり覚えてはいないが

ただ突然変わった時は 頭でも打ったのではないかと真剣に心配したよ」

「へー 確かにどんな性格からでも 今の和人みたいなったらそりゃあ驚くわね」

夕は裏緒が和人を尊敬してる理由が少し分かった気がした ただ今の和人が尊敬できない理由も分かった気もした

「あー 二人とも仲良く話してるー 何の話しかな?」

「あんたには関係ない話よ」

ちょうどそこに帰ってきた和人だったが 夕に一蹴され話に参加させてもらえなかった

「まあいいや これ買ってきた飲み物ね どうぞ あとは矢部警視が来るのを待つだけだね」

和人は飲み物のを配り終えると 椅子に腰をかけた 

そろそろ夜も明けかかっている 三人は飲み物を片手に現場の雑居ビルを見据えた すでに鎮圧が完了しているためか

事件当初の緊張感は無くなり 辺りには静けさすら漂おうとしていた 

三人も一息尽き 朝方の清んだ空気の中 矢部より帰宅命令が出るのを待った
 

 前回 戻る 次回

 

inserted by FC2 system