シルフル小説 リオ編7話
 

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裏緒(リオ)達の所属する警察署 そこには市内を担当する様々な課や係が設置されている

勤務時間を終え 多くの警察官達がその場を後にしていた

裏緒は話をするべく待ち構えていた矢部(ヤベ)警視に連れられ 警察署前のファミリーレストランに立ち寄っていた

まだ夕食時には早いのか店内には空席が目立っていた 矢部は隣に人が居ない席を選びゆっくりと腰を掛けた

そして矢部の正面に裏緒も腰を掛ける

「裏緒君 この前の犯人の事だが 護送は完了したよ」

矢部がそう切り出す

「そうですか これで事件は幕引きですね」

「ああ ところで その護送した犯人がこの後どうなるか知っているかい」

裏緒の返事をすると 矢部が刑ついて質問を投げかけた

「今回の事件は立て篭もりに加え警察内に殉職者が出てますので犯人の彼は極刑が言い渡されることになるのですよね」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

2人は黙り込んだ 矢部は如何にすれば裏緒が刑について知ってるかを聞けるか考えていた 裏緒はうかつな事をしゃべれば

矢部は見抜いてくると警戒していた 刑の事は重要な機密であり 刑の事を知っているか分からない矢部に漏らすわけにはいかないのである

「聞き方が悪かったみたいだ 君は刑の詳細を知っているか そう聞きたかったんだ」

矢部が更に確信に迫った聞き方をする

「『死』俺はそうきいていますが」

裏緒はそれに対して一般が知っているような当たり障りの無い返しをする

矢部は少し考えた後 言葉を切り出した

「君はこんな話を聞いたことが在るかい?私は今回犯人の護送に同行したさいに 刑務所の担当官から聞いたのがだ」

「担当官から? 何を聞いたのですか?」

裏緒はその言葉に矢部の目を見据えた 矢部も裏緒の目をしっかりと見据え一言だけ答えた

「実験」

その言葉に裏緒は確信をもった 今までの刑についての話の流れ 

そして刑務所の担当官から聞いたにしては 一見まったく別の世間話の様な実験と言う話

しかしその言葉を話す矢部の異常なまでの重み それが裏緒を結論に至らせた

「警視も刑のことを知っていたんですね」

矢部も裏緒が刑の事を知っていると確信が持てた 実験と刑 それを繋いだこと

そして実験のたった一言の後 次の話を待たずに話しに入ってくること

これらは刑の内容を知らなければできない事だからである

「知ったのはこの前だ 護送の時に刑務所の担当官が私も知っているものと思い込んで居たらしく 口を滑られせてね 

私も何れ知ることになるからと言い気にせず 詳細をいろいろと聞かされたよ 

それを聞いた時 裏緒君 君達も刑について知っているのだろうと思ってね」

矢部は姿勢を崩し 両手をいっぱい広げてソファーにもたれ掛かった そして天井を見上げて大きく息をつく

そして再び姿勢を整えて裏緒に話しなじめて

「今回 君に聞きたかったのはその『死』と言う刑の詳細をどこまで知っているかだ

君たちの事件においてでの能力者の犯人に対する行動 それから察するに可也のことは知ってるのは予測できる

どこまで知っているか話してはくれないか?」

それを聞いた裏緒は俯き目を閉じ考え込んだ 矢部が情報を知りたいのは分かったが 

それを知ったとして次にどう出るか それがわからなかったためだ

それを見た矢部は更に話をしだした

「私はね刑の事を聞いたとき 正直怒りに身が震えたよ 話通りの事が行われているならそれを許せるわけがない

それを平然と話す担当官にも頭にきて手が出そうになったよ」

矢部は感じていた憤りの一部を口に出した 皆が正しく生活するために警察がある そしてそれを誇りにしてきた

その根本を捻じ曲げる事に協力させられていたという事実に怒りがあふれてきていた

「君たちに命の大事さを説いてきた自分より よほど君たちのほうが分かっていたのではと思うと情けなくなってきてね

私は君達に協力しようと思っている そのため 君たちはどこまでの事実を知った上で事に及んでいたか 

それを知っておきたいと思ったんだよ」

それを聞いた裏緒は目を開け矢部を見据えて口を開いた

「分かりました 俺の知ってることを話します」

裏緒は矢部を完全に信用したわけではないが 話してみる価値のある人間である そう判断し話し始めた

「彼らに行われた実験それらは・・・」

裏緒の話始めた実験の内容 それは担当官から聞いたものと一致し 更に詳細まで語られた

能力者から能力を取り出す実験 新たな能力を与える実験 能力を増幅させる実験など

矢部も聞かされていなかった情報もあり それらは聞くだけで気分を害してしまう内容であった

「・・・そのくらいで十分だろう私より更に情報がある それは分かった

しかしその情報は何処から入ったの物か聞いてもいいかい」

矢部は自分が知っていることと 裏緒の話を照らし合わせて 嘘をついていない事 正確な情報をもっている事 それらは分った

問題は情報を何処で知ったかである 裏緒達は正しいと思い事に及んでいるのなら その意思は並大抵の事ではない

実際目で見て得た情報なら問題は無い しかし情報だけで裏緒達を動かした者が居るのならその人物を知らなければならない

そう矢部は考えていた

「和人(カズト)・・・ いえ 江戸(エド)刑事よりこの話を聞きました」

裏緒の言葉に矢部は眉をひそめる 矢部の知る『江戸 和人』とは 軽くちゃらんぽらん 威厳も志も感じられない 

そんな人物の言葉を裏緒が鵜呑みにしてる それを考えるとまったく腑に落ちないからである

そこで裏緒は更に続けた

「江戸刑事は その実験を受けた人物なのですよ ゆえに詳細に詳しく 信頼できる情報なのです」

矢部はその言葉に驚きを隠せなかったようだ しかしすぐさま矢部に疑問が浮かぶ

「実験・・・いったいそれは何処で受けたものだ?能力者の刑が作られた時期と江戸刑事の警察に入った時期はほぼ同じ時期ではなかったか?

だとすると彼が実験を受けたという情報はおかしいのではないか?」

「能力者保護施設の事は知っていますか?和人はそこで実験を受けたのですよ」

実験を受けた場所 矢部のその疑問に裏緒は答えた

「能力者保護施設・・・確か10年前くらいに事故があって今は解体されていたな・・・なるほど

しかしそこで実験が行われていたとして どうやって刑に繋がる?」

「事故が起こった保護施設の従業員が能力者用の刑務所の従業員の中にほぼすべて組み込まれていたことや

江戸刑事自身が調べたことなど 他には刑事が警察に入ったのは表ざたでは施設で起こった事件の保障に近い形ですが

能力者の検挙率を上げ その身柄を刑務所に送るために配属されたのです 刑事がそのことを知ったのは配属した後だったらしいですが

そして実験を行っていた研究者達の息がかかった人間と思い 口を滑らす人間も居るようで 

それらの集めた情報によりたどり着いたらしいです」

矢部は『江戸 和人』からの情報それは確かな物であると思えた 江戸を信頼してる故の裏緒の決意の固さも見えてきた

「ありがとう 今日は話ができてよかったよ」

「いえ こちらこそありがとうございました」

矢部は裏緒との話にある程度納得がいったようだ 裏緒も少しばかり理解使用としてくれる姿勢を見せてくれた矢部に感謝を言う

「裏緒君 君達に何かあったときは私を尋ねてくれればいい」

矢部のその言葉に裏緒は立ち上がり深く礼をした 

「あとこれも受け取ってくれ 帰りのタクシー代にでも使うといい 妹が待っているんだろ」

裏緒はその行為をありがたく受け取った

「ありがとうございます 俺はこれで帰宅させてもらいます 矢部警視のこの後は?」

「ん 注文もせず長々と居させてもらったからな ここで何か食べてから帰るよ」

矢部のこの律儀さと真面目さも 彼が若くして大任を任されている要因であろう

裏緒は礼を言い 頭を下げると その足で建物の外へと歩き出した

矢部と次に顔を合わせる時は また大きな事件が起こった時であろう

その時には『死』と言う刑が少しでも改善させていることを願い 裏緒はその場を後にして行った

 

『シルフル第一話 裏緒編 終』

 

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