シルフル小説 ユリ編1話
 

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この町の交通はそこそこ発達している

電車に乗れば大概の場所に行け 待ち時間も苦に感じないくらいの間隔でダイヤが設定されている

繁華街やショッピングモールなど人で賑わう施設のある駅や

商店街や住宅地など 生活の場となっている所など 近場でもさまざまな駅があり

この電車には大学の受験を控え図書館に勉強に行くため 電車に揺られる彼女姿があった

一人の名前は愉利=シルフ(ユリ=シルフ) セミロングで茶髪の髪で露出の多い服を着ている

身長は低めで活発な雰囲気を醸している

勉強はあまり好きではなく 面倒くさいという表情がにじみ出ていた

そしてもう一人 彼女の妹で名前は ミント=シルフ 白髪の長いポニーテールでその特徴はなんと言っても

犬の耳がこめかみの後ろ辺りに生えていて 犬の尻尾らしきものも生えている

ファッションとして動物のそれらをモチーフにしたアクセサリーはあるが

彼女は実際に生えているのである

ただこの時代には能力者という様々な力を持っているものがおり

人間にはない体のパーツを生やしている物は珍しくはあれど驚くほどではないため

気にするものは居れど 騒ぎになることはないのであった

「うう・・・なんで私だけ勉強しないといけないの・・・」

愉利がそうつぶやく 彼女の言う私だけというのは彼女が三つ子であり その姉と妹はすでに進学が確定しているからである

姉の遊美(ユミ)は剣道が得意でそれを買われ大学にからスカウトを受けて入学が決まっている

妹の安芸(アキ)はずば抜けた学力があり 海外の大学からオファーが来ていた

愉利は特に勉強ができるわけではなく 部活動などもしていないため 通常の大学入試を受けることになる

「愉利姉さん? 愉利姉さん! 聞いてる?お礼には苺大福を2個!耳をそろえてちゃんと払ってもらうのだ!」

「んん?耳をそろえるのはあんたの方が得意でしょ 4つもあるんだから それにね

 私が用があるのは あんたじゃなくて あんたの中の犬なのよねぇ」

愉利がミントの要求をはぐらかしていると電車が目的の駅に着く愉利はそそくさと降り目的地の図書館に向かい歩き出した

置いて行かれまいと それにミントもついていく

愉利の行っていた『中の犬』とは ミントに生まれながら憑依している式神で先祖が従えた人狼ならぬ人犬である

名前は狛治(コマチ)と呼び ミントを通して会話などもできる 寝起きもミントと共にし見聞きしたものも共有している

その姿はミントによれば 人に犬の耳と尾があり長い白髪を携え着物に身を包む高貴な女性らしい

ミントに生えている耳や尾は狛治の霊力により実体化されたもので 白髪なのも狛治の影響によるものである

様々な知識を持ち その知恵は人を凌ぎ 特に数学においては現代にも通用し名だたる数学者にも並び立てるほどであった

愉利は受験のため その知識を借りようと ミントを連れてきたのである

『主 わが主よ・・・』そのことばにミントはいったん立ち止まる この言葉はミントにしか聞こえていない

ミントの心の内より狛治が語りかけてきているのだ ミントはその言葉に耳を貸しつつ再び姉に追いつこうと歩きだした

『主よ 私はこの者に知識を授けることに気が進まぬのだが・・・』

「そこは我慢なのだ 狛治は苺大福食べたくはないのだ?」

『苺大福は食べたいどこなのだが 私の知識への報酬が大福2分とはいささか納得しがたい・・・』

「・・・幸福堂・・・」

『!! その名はわれらが商店街にありつつ 日の本 もとい海の向こうまで名が轟くというあの店か!』

「そのとおり!愉利姉さんはまだあの店の名をしらないから たかが2個と思わせて入店させ退路を塞いで買わせるのだ!!」

『おお そしてあの一個で札が飛ぶ苺大福がわれらの手に入るというこんたんであるか

 さすがわが主 食べ物の事だけは知恵が働くものだ』

ミントは得意げだった 密かにけなすされている事には気づいてはいないらしい

「ミントー何してんの 早く来なさいー」

愉利が振り返りミントを呼ぶ 狛治との話に夢中になり置いていかれていたようだ

ミントは駆け足で愉利の元へ向かった

図書館に到着し愉利は目的の本の元に向かっていた

「ところで愉利姉さんは どんな事を勉強しに来たのだ?」

ミントがそう聞くと 愉利はちょうど手に取った目的の本を広げた

そこには数学の方程式などの数字と英語の陀列が並んでいた

「ここ ここの式が試験には重要らしくて それの説き方など聞こうとおもったのよ」

「なるほど〜 さっぱりわからないのだ」

「あんたにはそうでしょうね っさ席に行きましょう さっさと狛治を引っ張り出しておいてね」

そういうと愉利は 近くに設置されている机に向かった ミントもそれを追いかけて歩く

愉利とミントが席に着く 机は円状で周りには三つの席が均等間隔で置かれており 話し合うにはちょうどよい席の間隔であった

「じゃあここから教えてもらおうかな ミント準備はいい?」

「OKなのだ」

そういうとミントは一度うつむく 顔を上げるとそこには今までの無邪気な表情はなく 険しく鋭い表情が浮かぶ

「では 今からそなたに知恵を授けて進ぜよう ありがたく思うといい」

「あいあい・・・」

表情だけではなく言葉遣いも偉そうに変わり 狛治が表に出てきたことを愉利は確認し適当な言葉で返事をする

そして狛治の講義が始まる 大学入試程度の問題なら狛治にとっては造作もなきこと 数学を熟知している狛治は

それを分かり易く教えることも容易い 愉利自身も飲み込みは早いため勉強はスムーズに進んでいった

「・・・で・・・ここが・・・なのである うむ!この辺りはこれだけ知っておればもう問題はなかろう」

「ぐはぁー! 疲れた・・・頭いたいは これ・・・」

狛治の講義が終わり 愉利が机にへたり込んだ

「思ったよりも良い頭をして居るなヌシ 普段から学んで居れば苦労せずにすむものを・・・」

「遊べるときに遊ぶ それが楽しい生き方ってものよ・・・」

狛治の説教に愉利は机に顔を埋めながらつぶやいた

「生き方とはまた壮大な 若輩のヌシに本当にそれがわかって居るのかえ?」

生き方という言葉が気になり狛治が突っかかる

「分かるわけないわー そう思ってるだけ

 そもそも生き方とか人生とかってたかだか人の一生程度で分かるものじゃないでしょ〜

 私は分かってるのかとか 分かった気になるなとか言う人間がきらいなよ

 そういう人間が一番分かった気になってるのに気づいてないから」

愉利の口からついつい愚痴が出る

「ほぅ・・・それは悪かったのう・・・」

「あんたは人間じゃないでしょうが あんたほど長生きしてるなら誰も文句は言わないわよ」

狛治はすでに千年以上式神をやっていた

そして狛治に向けて言ったのでは無い それを何とか伝えようと愉利は言葉を繕った

「残念ながら 私は霊体ゆえ長生きとは言わないぞえ」

「・・・・」

愉利はその言葉に気の利いた言葉が浮かばない

「何を黙りこんでおる そこは笑うとこぞ 私の中ではミントが爆笑しておるというのに」

「っぷ・・・ははは」

「ふむ!あとを引いて笑いがこみ上げてくるか」

狛治の渾身のネタだったらしい しかし愉利の笑っていた理由は違っていた

「くくく・・・違う・・・あれで爆笑とか ははっ・・・

 あんた達どれだけ笑いのツボがずれてるの・・・くくく・・・おなか痛い」

「うむ?ずれておる?私がか・・・?まあ笑ったので良しとしよう」

とりあえず場が和んだことに狛治は納得する

「ああぁ・・・疲れたー カラオケ行きたい ゲーセン行きたい 買い物行きたいー!」

「早速遊ぶことを考えておるのか・・・」

「だって遊べるときに遊ぶ それが私だからね」

その言葉に狛治が頬を緩める

「さて〜じゃあ行こっか〜」

愉利は荷物をまとめると椅子から立ち上がる

しかしそこに

「「その前に行くところがあるぞだ!!」」

ミントと狛治の意思が同時に喋りだした

「「苺大福 二個しっかりおごってもらうぞだぇ!!」」

気迫は凄いが同時に喋っているため語尾が空回りしていまいち迫力にはかけていた

『主よ ここは落ち着こうぞ』

『確かに ではここは私が話すことにするのだ』

『主よ 任せたぞ 必ず幸福堂の苺大福を報酬に』

この間一瞬

「愉利姉さん 苺大福はいいお店があるのでまずはそこに行くのだ」

「えー 苺大福なんてそこのコンビにでも売ってるじゃん 早く買って遊びにいこぉ」

確かにコンビニでも苺大福は買えるしかしここで買ってしまえばミントの作戦は水疱に消える

「報酬は二個だけなのだ 少しでもおいしい所で買いたいのだ」

ミントが食い下がる 愉利が目的の店に行くようミントは必死で知恵を働かせていた

目的の店の幸福堂とカラオケやゲームセンターがある繁華街とは目的地が逆方向なのである

遊びに行くと決めた愉利をどうやって動かすか ミントの心の中で狛治と会議がくりひろげられていた

 

つづく

 

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