シルフル小説 リオ編3話
 

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裏通りはあと、3時間すれば日が昇るという頃ではあるがとても騒がしい

規制線の辺りではマスコミや野次馬が集まり 普段とは違う物々しさがある

犯人が立て篭り事件を起こして6時間は経とうとしていた

現場の周辺は薄暗く明かりと言えばバーやクラブ 風俗などの独特の自己主張の強い看板など

そしてひとつ異様な明かりに包まれる建物があった あちこちからライトで照らされていて

その周りを警官が包囲し張り詰めた空気が漂っている 犯人たちが痺れを切らし何時飛び出てきても対処できるよう

武装した警官が待機しており 土嚢などのバリケードも完成し 包囲に抜かりはないといった感じである

そして犯人が立てこもる雑居ビルの一階入り口 建物正面より見て左端の位置 その前の包囲が解かれて行った

そこに一人の男がゆっくりと向かってきて持ち場に付く これより硬直していたこの現場は動き出すだろう

裏緒(リオ)は持ち場に着くと 右手に持つ刀を顔の前に掲げ左手を塚に沿え息を整える

その刀は鍔(つば)の無い居合い刀で塚と鞘は木で作られており使い込まれた時代を感じる色をしていた

青い髪と白いコートが風になびき時の流れが緩やかに感じられ 周りの警官隊が突入の時が今か今かとを固唾を呑んで見守っている

裏緒は息を整える中 頭に入れた犯人の配置 建物の構造などを話を思い出していた・・・

夕が感知した犯人の位置は一階に6人二階に1人三階から五階には犯人は居ないという配置だった

「一階に居たやつらは割りとはっきり感知できたけど 二階のやつは幽かにしか感じ取れなかったわ

どうやら可也の力を持ってる能力者 遠山に間違いないでしょう」

夕は感知した犯人の位置の正確さに自身を持っているようだ 実際示した配置が間違っていたことはない

「二階に1人? 矢部警視この建物は屋上などの上からの侵入経路はあるのですか?」

「このビルには5階と屋上が行き来できる構造になっていて 隣のビルから進入することは可能だ

無論犯人らもこれは承知だと思っている」

裏緒の疑問にたいし矢部は即座に答えをだした

「三階より上は狭く個室の壁も火に大してさほど強くない素材で仕切られているようだ

火事になっては元も子もなく 火を使う能力者にとっては戦い辛いゆえ誰も配置されていないのだろう

それにしても二階の手薄さは気になるな まだ確認が取れてない犯人が数名いるかもしれん」

「もしくは遠山の自らの力に対しての自信・・・かもしれません」

矢部は冷静に分析し結果を伸べ 裏緒も矢部が話した以外の可能性を模索する

「結論を言うと今考えても答えは出ないってことよ 話すだけ無駄っ次」

考え出せばいくらでも可能性を出してきそうな2人を見かねて夕が割って入り話を次へ進めた

突入にあたりバー内部の構造の詳細に話しに進む

バーの入り口は店を正面に見て左端に位置している そこから店に入れば

正面には黒いテーブルに鉤型の黒いソファーが三組奥まで並んでいて 正面より右手に向けば中央には同じソファーとテーブルがあり

一番奥には奥には2階に上がる階段とバーカウンターが在る 階段は入り口の手前側から奥に向かって上る構造になっていて

そしてカウンターには椅子が数脚並びバーカウンター内の棚には様々な種類の酒が置かれている 

テーブルは全部で6対あり カウンター席とあわせれば最大20名以上は入れそうだ

階もほぼ同じ構造で違いといえばバーカウンターが一階の入り口の上方面に位置しそれとは別に二階から三階に上がる階段の前に

受付用のPCが乗った黒いカウンターが在る ここで一部の人間が通され上の階で麻薬の売買がされ

3階以降の個室はそれをしようするための施設のようだ

そして一階の犯人の配置は入り口正面の席に1人 入り口より右手に1人 中央の一番奥の席に2人

バーカウンター内に1人 階段前に1人という配置とうい感知結果であり いずれも火を操ることができる能力者である

そして二階には階段から見て一番奥の中央の席に遠山と思われる今回の事件の主犯が陣取っている

「突入は屋上より手薄な二階から攻めるのか?」

矢部がそう裏緒に尋ねると

「いえ 正面入り口より突入し 遠山が動き出す前に一階を制圧します」

「動きを止められる一階のやつらを先に片付けるた方が効率がいいの

今回は私の力でも遠山は止められるか分からないから」

そう裏緒のことばに夕が続けた・・・

「・・・ふう・・・」

裏緒は記憶を整理し終えゆっくりと目を開ける 目を閉じていた時間は1分ほどだが 周りの警官にとってはとても長く感じただろう

「準備はOK?」

イヤホンマイクから夕が話しかける

「ああ では行くか・・・」

裏緒はゆっくりとバーの入り口の前に向かう このバーは外の目を気にしてか窓がない裏緒が入り口の前に立っても中からは気づくことができない

入り口のドアは中の広さにはそぐわない喫茶店のドアのような一枚扉であった 

「夕 行くぞ!」

「了解」

夕はわら人形を手にし 強く念じ始め 裏緒は刀の柄に左手を添えると 次の瞬間には扉の蝶番(チョウツガイ)を真っ二つに切り裂いた

そしてけたたましい音を立てドアを蹴り倒しバー内に入る 犯人らはその音に気づき入り口を向こうとするが

体がまったく言う事を聞かず動くことができない バー内に入った裏緒はすぐさま入り口正面と右手側に犯人を確認する

彼らの前には篝火(カガリビ)が置いてあり いつでもその炎を飛ばして攻撃できる態勢であったようだ

裏緒はもっとも近くにいた右手側の犯人に即座に切りかかり 脇をすり抜けるように太刀を浴びせ

さらに前方のバーカウンター内にいた男の前に進み一瞬立ち止まり刀の塚に手をかける すると男は力なくその場に倒れこんだ

すぐさま裏緒は身を翻しバーの一番奥にいる2人に向かい駆け出す 正面より迫る恐怖にも2人はなすすべはなく

絶望の中に意識は消え去って行く 入り口正面に居た犯人は首も目も動かず正面を見据えるしかなかったが

音はしっかり聞こえていた 一瞬にして人や椅子が倒れる音が聞こえ 背後から迫る足音に身が凍る

その足は次第に大きくなる そして足音が止んだとたん何も聞こえなくなった

裏緒は2階に上がる階段に向かっていた 階段の数段目あたりには腰を掛けている者が居た

彼には一瞬だけ青い髪の男が見えたのだろう

「・・・・・・」

能力者が罪を犯した場合その刑は能力の使えないものにくらべとても重い 罪を決める基準もかなり明白なものが作られており

対外の場合 裁判になる前にその結果が分かってしまうほどのものである 能力による攻撃で警官に殉職者をだし立て篭もりまでした彼らには

すでにもっとも重い刑が確定している 最も重い刑その名前は『死』である・・・ しかし大切なのはその本当の意味である

本当の意味を知るものは僅かしか居ないが 裏緒 夕はその意味を聞き知っている 

そして 江戸 和人は目の当たりにしてきた僅かな人物である

和人が十代の頃は能力者に対し法や政治がまだついて来ておらず 犯罪や偏見など様々な問題があった

そのため幼い能力者を保護する施設がいくつも用意され和人はそこで過ごすことになる

しかし数年後その施設で事故が発生した 能力者が暴走し施設に居た能力者30数名中 

和人を含めた3名以外は皆死亡してしまうと言う惨事を起こす

その後和人は両親の元に戻され数年後異例の扱いで警察機関に所属した 

そしてそのころ能力者への的確な法が整備されていった

和人が居た保護施設は国が経営する能力者の中でも特に秀でた者が集められたとこだが その実際の中身は

能力者を実験に使った研究施設であり 事故も能力者に施した過剰な実験が引き金となったものであった

国の隠蔽工作の結果表ざたにはならず 和人もある種口封じと言う形で警察機関に所属し階級にそぐわない大きな権限を与えられることになる

そして国は能力者研究のため 新たな実験台を求めた それがこの『死』と言う刑である

刑を受けたものが死んだとしても刑が執行されたとしか報道されないが それを気に留めるものはいない

その家族ですら罪の重さを建前に状況を知らされることはないのである

「また矢部警視に長々と説教食らうことになりそうね」

イヤホンマイクごしに 夕が語りかける

「仕方ない こうするしかない・・・ それに警視の言ってることも間違ってはいない」

言葉を濁しならが裏緒は二階へ向かい階段をゆっくりと上っていた

通って来た後に広がるのは赤い絨毯(ジュウタン)そこに横たわる彼らは二度と目を覚ますことはない

しかし彼らにとってはその方が幸せなのである ここで生き残ってしまった物に架せられる刑とは

この悲惨な状況ですら幸せと言えるほどのものなのだから・・・

そして裏緒達もそのことを承知であるが故 自ら重い十字架を背負う道を進んでいる

この事件に幕を引くべく一段一段階段を踏みしめ主犯の遠山のもとに向かい進む裏緒の姿がそこにあった・・・

 

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